001:笑
谺には色がありますこの時間なら橙色の笑い声
002:一日
すし詰めの遅延電車はゆっくりと客の一日(ひとひ)を吐き出している
003:助
六十度の坂にひるんだわけじゃないこれが私の明日への助走
004:ひだまり
ひだまりの三つの木椅子眠そうな午後をしずかに味わっている
005:調
黒白(こくびゃく)を愛し止まない調律師モノローグにはきれいな涙
006:水玉
初夏の声は水玉スカートは端から染まり始め水色
007:ランチ
しあわせに暮らしてますっていう証?君の花柄ランチボックス
008:飾
青空にすっかり染まりたがっている君にターコイズの首飾り
009:ふわふわ
深海のジェスチャーゲーム両足を揃え水母のようにふわふわ
010:街
西へ伸び天へと伸びる街路樹はコントラバスの生み出した風
011:嫉妬
一心にパン生地を捏ねているうちに嫉妬している私が見えた
012:達
何気ない君のひとことまっすぐに胸の奥まで達する深傷
013:カタカナ
ロボットはロボットのままでいたいから喋る言葉はいつもカタカナ
014:煮
ぐすぐすと小豆が煮えるあと一歩踏み出せぬ私を責めている
015:型
日焼けしたランニングシャツの少年が飛び出してきそうな模型店
016:Uターン
私にかすかな羽音だけ残しUターンして燕は海へ
017:解
雪解けを待っていました脚長のウサギを抱いて待っていました
018:格差
格差婚だって言われているけれど心に格差持たない二人
019:ノート
ラストには好きな香りを残したい私を包むシプレ・ノート
020:貧
ふくよかな言葉を少しずつ集め追い払っている貧乏神
021:くちばし
約束の三十分も前に来るひっきりなしに動くくちばし
022:職
休職の願いなんなく受理されて戻る道などないかもしれぬ
023:シャツ
真っ白なワイシャツ翻るネクタイ君はひとりで歩き続ける
024:天ぷら
ひたひたと迫る夕暮れいつだってカラリと揚がる君の天ぷら
025:氷
十三時二十八分五十秒二人の味の氷白玉
026:コンビニ
ライト浴び並ぶコンビニ弁当の最初で最後となる晴れ舞台
027:既
まっすぐに歩き続ける男たち既成事実は海より重い
028:透明
サイダーを飲む山脈も私も真青の空のように透明
029:くしゃくしゃ
くしゃくしゃになるまで笑い続けたの海に手紙を破り捨てたの
030:牛
牛乳を飲めば大きくなるよって言うから飲んだ 飲んだのに
031:てっぺん
降り注ぐ陽射しの中で約束を交わすヒマラヤ杉のてっぺん
032:世界
世界史の教師が語るビザンティン帝国史には蜥蜴が宿る
033:冠
一歩二歩頷きながら歩み寄る袋小路に明るい鶏冠(とさか)
034:序
深緑色の深度はどのあたり貝殻に聞くエジプト序曲
035:ロンドン
東雲に今日の予定を書き込んでロンドン塔はまだまだ眠い
036:意図
私の意図ではないと嘯いてのうのうと着く天下りの椅子
037:藤
特急は何本通過する気だろう どんどん遠くなる遠藤さん
038:→
夕暮れに→→→(三本の矢)の標識を見つけたときは背中に注意
039:広
夕焼けに何も注がぬ方がいい広口びんの中には孤独
040:すみれ
ぶらんこを大きく漕いですみれ色の私の空に近づいていく
041:越
義経の声が聞きたい腰越の夕陽にひとり佇んでいる
042:クリック
胸元の開いたドレスが似合うんだ君が来るまでダブルクリック
043:係
係員の指示を仰いで真夏日の時計台へと星を誘う
044:わさび
わさび田の匂いの中でひっそりと二分刻みで泣いている月
045:幕
嫌われず一番人気にもならずマイペースな幕の内弁当
046:常識
真剣と風の音とを聞き分ける常識と非常識との間(はざま)
047:警
下草を滅多やたらに刈っている警鐘鳴らす絶滅危惧種
048:逢
逢いたさは遥か彼方に富士の嶺をぐんぐん越える飛行機雲
049:ソムリエ
首も腕も太い異国のソムリエにピンクの付箋を貼っておきます
050:災
階段を一段おきに行く君と不安広がる防災訓練
051:言い訳
長い長い言い訳を考えていた 明るさを増す十三夜月
052:縄
腕いっぱい回す縄跳び十人が順に飛び込む異界の扉
053:妊娠
妊娠を告げる医師の目あたたかく十時二十五分の光
054:首
二年間ほったらかしにされていた松ぼっくりと猪首の男
055:式
執着の葛(かずら)絡まる幾度も式子内親王の憂鬱
056:アドレス
もう過去の遺物となってしまったのアドレス帳のインクが滲む
057:縁
いつだって夕陽と打っておりました時計が止まる縁台将棋
058:魔法
定年後に通うカルチャースクールの一番人気は魔法教室
059:済
代金は払い済みです雨音の寂しい分も立て替えました
060:引退
賑やかに送ってやろう晴天の岬めぐりのバスの引退
061:ピンク
ショッキングピンクの衣裳サーカスの象の桃子の涙一粒
062:坂
寝台車の窓の向こうに走りたる黄泉平坂(よもつひらさか)いつ交わるか
063:ゆらり
首都圏の雨は今日まで嘘泣きの男の背中ゆらり蚊とんぼ
064:宮
団欒をしいんと聞いている守宮(やもり)深まってゆく秋のベランダ
065:選挙
どの顔も一様にみな泣き笑い九月の雨に選挙ポスター
066:角
新しい世界開けるでで虫の触角少し傾いている
067:フルート
フルートの音の集まる階段の踊り場にいる春のはじまり
068:秋刀魚
母の背で見ていた夕陽まっすぐに今日噛みしめる秋刀魚定食
069:隅
蝶々を心の隅に棲まわせる夜道も決して迷わぬように
070:CD
図形ABCDと同形を海から探せという設問
071:痩
路線図は複雑すぎる夏痩せの人差し指に負担がかかる
072:瀬戸
君からの声が聞こえてくるような一輪挿しは黄瀬戸の徳利
073:マスク
無地カラー花柄水玉ストライプ遠出をしたい日替わりマスク
074:肩
壊れないように撫でてね私は肩甲骨で呼吸をするの
075:おまけ
おまけにはブランド小物鎮座して主客転倒淋しい雑誌
076:住
真昼間の住宅街に忍び込むすうっと足の伸びゆく日差し
077:屑
冬の海に淡い身の上話など聞かせ散りばめている星屑
078:アンコール
たくさんの拍手の中にまぎれ込む「アンコール!」 あの人の声!
079:恥
新しいポストはもらった方が勝ち 彼らの辞書にない羞恥心
080:午後
足跡を貸してあげよう私の午後は文庫と濃いミルクティー
081:早
早足でやってくる冬ポケットにドングリ100個詰めていました
082:源
一本の糸を手繰って連綿と源平藤橘春の夕暮れ
083:憂鬱
この街のためにも買おう大熊手お酉さまにも憂鬱な日々
084:河
ゆるやかに渡る深秋のささやきセーヌ河畔に蒼い人形(ひとがた)
085:クリスマス
クリスマス・イブにきらめく指輪には別れの言葉が詰まっています
086:符
感嘆符に満ちた青空スキップでどんどん増えていく四分音符
087:気分
日本海に石を抛って一瞬で太平洋に変えたい気分
088:編
ジェラシーを加え手編みのマフラーはきれいな色になっております
089:テスト
何度でも受けよう人生のテスト筆記用具は不要なんだし
090:長
一国を包(くる)んでしまうほど長いホルンの音はたぶんグリーン
091:冬
冬空にコンペイトウを鏤める君の翼にやさしい明かり
092:夕焼け
石蹴りの石と一緒に夕焼けの薄い欠片を拾い集める
093:鼻
大仕事終えて静かに眠りだすサンタクロースの鼻と白髭
094:彼方
語らない韃靼人の目に映る遥か彼方の煌く光
095:卓
電卓の液晶数字が揺れだした背中をぐいと押してる西日
096:マイナス
にぎわいの銀杏黄葉のただ中で呼びかける枯葉マイナス落葉
097:断
真夏日の横断歩道ゆがみだす左右前後を過ぎるロボット
098:電気
もう愚痴を言うのはやめたふつふつと電気ポットのお湯が沸くから
099:戻
後戻りできない今日の側面にメタセコイアの正しい樹形
100:好
そのあとにすっと広がっていく弛緩ゆっくりまばたきするのが好き
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